うめたび!

風の向くまま、気の向くまま、旅をするにはまだまだ経験も修行も足りませんが、楽しんで旅をする様子を綴ります。

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アガサ・クリスティ「予告殺人」※ネタバレなし

こんばんは。

今日はアガサ・クリスティ「予告殺人」について語ります。

 

 

 
 のどかな田舎町チッピング・クレグホーンの金曜日の朝。各家にローカル紙の《ギャゼット》が配られる。地元の退屈な記事ばかりの掲載されているこの新聞に、驚くべきことに「殺人予告」が掲載されていました。
 
 殺人が起こる場所は、ミス・ブラックロックというオールド・ミスが親戚や友人と共に暮らすお屋敷。新聞を読んだ町の人達は、退屈な日常に舞い込んだ催しに興味を引かれ、こぞって集まります。
 
 もちろん、誰もが本物の殺人が起こるなどとは思っていません。何かゲームが始まると思い楽しみにしていたところ、予告の時刻と共に部屋の灯りが消え、同時に銃声が響き渡ったのでした。
 
 この恐るべき殺人事件に挑むのが、我らがミス・マープルです。
 
 作中に、登場人物のひとりが、
「チッピング・クレグホーンてのはどんな所なんだい?」
と訊ねるシーンがあるのですが、それに対する返答が、
「ひろびろとした、絵のような村だよ。住宅地としても高級なところだ」
 
 この描写のとおり、チッピング・クレグホーンはのどかな田舎町で、退役軍人や独身の老婦人たちが余生を送るために移り住んでくるような所です。
 
 まず殺人とか強盗なんて血なまぐさい犯罪とは無縁そうなこの村でなぜ殺人が起きたのか?
 犯人の狙いは何なのか? そして殺人は一度で終わらず、二人、三人と犠牲者が増えていきます。
 
 本作の見所は「新聞広告にわざわざいつどこで殺人やりますとか普通言うかー?」という、クリスティならではのシチュエーションです。
 
 ただ、新聞を読んだ町の人は
「えー!ミス・ブラックロックのところで殺人やるって!」と驚きはしますが、 それは「今夜パーティーするからよかったら来てね。殺人ごっこもするよ!」という公開招待状という意味にしか捉えていないんですよね。
 イギリスというか、ヨーロッパではこういう新聞にパーティーの予告やるって、日常のことみたいですね(現代はどうか分かりませんが・・・)
 
 ミス・マープルは町の牧師館に泊まり込み(名付け子がこの町の牧師様と結婚していて、例の殺人パーティーにも招待されているご縁で)、事件のあったお屋敷の女主人、ミス・ブラックロックやその他の住人、パーティーに集まった人達と近づきになって話をして、相手の深層心理に深く分け入っていきます。
 
 この殺人事件はただの?遺産目当てとかではなく、一人の弱い人間が保身から犯した悲しい事件であることをマープルさんは突き止めるのですが、その動機や罪のない人を手にかけてしまう犯人への同情も見せています。
  
 これまで、どんな相手であれ、殺人者にはいっさい憐憫の情を見せないマープルさんには珍しいことです。
 ほんの少し運命が違ったら、自分も同じような犯罪をするかもしれない人間のもろさをマープルさんは知っているからかも知れません・・・