大胆不敵な犯罪に挑む灰色の脳細胞/アガサ・クリスティ「ひらいたトランプ」※ネタバレなし
今日は、アガサクリスティー「ひらいたトランプ」について語ります。
ずっと「ミス・マープル」シリーズについて書いてきましたが、今回はミス・マープルと人気を二分するもう1人の名探偵、エルキュール・ポワロのお話です。
場所はロンドン。ごく少数のゲストだけを招いた小さなパーティーの席上、ホストである社交界で悪名高いシャイタナ氏が刺殺されます。それも、同じ部屋で四人の人間がブリッジに興じている間に刺殺されるという大胆な犯行でした。
そのパーティーに招待されていたのがベルギーから亡命した名探偵、エルキュール・ポワロ。
彼は自分の目の前で殺人が起こったことに憤り、調査に乗り出します。
ポワロは、シャイタナ氏から問題のパーティーに誘われた際、気になることを聞いていたのです。
それは、「過去に殺人を犯しながら、まんまと逃げおおせた人物を招待しますよ」とシャイタナ氏が、明るみになっていない殺人犯人を知っていると匂わせていたことでした。
パーティーに招待されていたのは、ポワロの他に有名な女性推理小説家オリヴァー夫人、裕福で気高い雰囲気をもつ年老いた未亡人のロリマー夫人、諜報局員のレイス大佐、冒険家のデスパード少佐、年若いミス・メレディス、抜け目のないドクター・ロバーツ、そして警察官であるバトル警視。
シャイタナ氏と同じ部屋でブリッジをやっていた、ドクター・ロバーツ 、デスパード少佐、ミス・メレディス、ロリマー夫人の四人が、とりあえず容疑者として取り調べを受けることになりました。
ポワロは独自の調査方法を用いて四人の容疑者に近づきます。問題のブリッジはどのように進行していったのか? 誰が一番ゲームに強いか?
それと殺人とどんな関係があるのか疑問を抱きながら、四人はそれぞれ供述を始めます。しかし、ポワロの真の狙いはブリッジの勝敗などではなく、ゲームを通じて現れる容疑者たちの人間性、性質を深く掘り下げることなのでした。
ポワロの聞き込みと、バトル軽視の調査が進むうち、四人の過去がだんだん明らかになっていきます。シャイタナが言ったように、このうちの誰かが過去に殺人を犯し、そのためにシャイタナは殺されることになったのか? それはいった誰なのか?
物語は終盤に急展開を迎え、意外な人物が真犯人として名指しされるのでした。
本作は、まずブリッジというカードゲームが大きなカギを握っているので、このゲームを知っていないと「ちょっとよく分からない・・・」という箇所がいくつか出てきます。
ルールとか、点数のつけ方とか。カードゲーム中にどうやって席を外して人を刺したりできるのか?
作中に簡単な説明ももちろんありますし、知らないから「この話、つまんなーーーい」なんて事はありませんので、ご安心ください。私もブリッジなんて聞いたことはあるけどやったことないし(トランプなんてババ抜きとか七並べくらいしかやったことないです・・・)、それでも充分、引き込まれました!
ポワロは、ミス・マープルとよく比較されますが、ミス・マープルと比べると何もかも正反対というか(まあ性別もまず違いますけどね)。
ミス・マープルが謙虚でおとなしい性格なのに対して、不遜なほど自信家だったり(失敗ということは、このポワロに限ってありません。この灰色の脳細胞がすべてを解き明かします、とか言うし)
ロンドンの洒落たマンションで暮らして、外国へもよく行くし。神経質で潔癖症なところがあり、自身のチョビ髭に異常なこだわりを持って手入れするし。
要するに何かと鼻につくのですが、そんなクセの強いところもポワロの魅力。彼の風変わりな聞き込みに、人はまんまと騙されて口を開いてしまうのです(若い子には、あのおじいちゃん、本当に名探偵なの?もうヨボヨボじゃないなんて散々な言われようなのです)。
カードゲームの最中に人を殺すなんて大胆不敵な犯罪に、ポワロがどう挑み真相を掴んでいくのか。意外な真犯人、結末にも目が離せない、大注目の一冊です。