人工的な明かりに揺れる不安・・・アガサ・クリスティ「蒼ざめた馬」※ネタバレなし
今日もアガサ・クリスティの作品について語ります。
「蒼ざめた馬」
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学問と研究の論文執筆に励みながら、自分にふさわしい(見た目、教養や育ちといった意味で釣り合っている)ガールフレンドとデートもする、いたって普通の青年です。
ある夜、1人の神父が霧のたちこめるロンドンで撲殺される事件が起こります。被害者は靴の中に手書きのメモを残しており、そこには複数の人の名前が書いてありました。しかも、そのメモに残された名前のうち、数人は既に亡くなっていたのです。
その謎めいたメモに興味を抱くマーク・・・実は、彼の親戚にあたる老婦人の名前もそこに書かれており、既に死亡していたからなのです。
彼は独自の調査に乗り出し、やがて奇妙な噂を耳にします。それはある田舎町の古ぼけた館「蒼ざめた馬」に住む三人の老嬢が、「魔法」をかけて人間を呪い殺しているというもの。
「死んで欲しい人が居るなら、蒼ざめた馬へ行けばいい」という合い言葉がまことしやかないささやかれているというのです。
この現代にそんな黒魔術的なことが存在するはずがないと半信半疑ながら、マークは真相を突き止めるため「蒼ざめた馬」へ行き、三人の老嬢と対峙するのでした。そして事件は思わぬ展開を見せます。
本作はミス・マープルもエルキュール・ポワロも出てきません。ごく普通の青年が日常生活の中で事件に巻き込まれていくお話です。
しかし、知的好奇心にあふれ、自ら事件に関わっていくところはミス・マープルと似ていますね(ポワロは探偵業なので、向こうから事件が舞い込んできますが)。
本作はお馴染みのキャラクターがいない代わりに魅力的で興味深い人物がたくさん登場します。
主人公マークの友人に、ポワロの「ひらいたトランプ」で登場した女性推理小説家のオリヴァ夫人が出てきますし、 マークの従姉妹としてローダ・デスパード夫人とその夫のデスパード少佐が登場します。この二人も「ひらいたトランプ」に登場し、作中で結ばれたカップルなのです!!
読んでいて、「あ”ー!オリヴァ夫人!!」とか「ローダじゃん!」とか思ってしまうクリスティヲタク笑
もちろん興味深い登場人物はまだまだいます。「蒼ざめた馬」の住人である三人の老嬢(サーザ・グレイ、シビル、料理人で女中のベラ)・・・しかし三人とも「いかにも怪しい」といった雰囲気はなく、サーザは見た目いたってまともで教養もある女性として描かれています。シビルは東洋かぶれのきらいはありますが、でも無害そうな人だし、ベラは年老いてはいますが有能な料理人です。
マークは三人が魔法だの呪いだの使うことを信じられないまま、ローダの友人であるジンジャ(というニックネームの女性)の協力を得て、彼女の身に実際に「呪い」をかけるというぶっ飛んだ作戦に出ます。
・・・ところが本当に呪いが効いて???それまで健康体だったジンジャに病気の兆候が現れたもんだから慌てふためき、パニックに陥るマーク。
そこへ、オリヴァ夫人がある助言をすることで事件は解決へ向かいます。
割と最後までハラハラドキドキしながら読み進めました。
クリスティの物語の舞台は、現代のロンドンではありますが、2000年代ではなく、1900年代の、日本で例えるなら「昭和」の時代。
電気もガスあって自動車や飛行機、列車もあります。もう「魔法」だの「呪術」なんて超自然的なものは小説の中の出来事、迷信ごととしてうち捨てられている訳です。
そんな中、呪文で人を殺すなんて誰もにわかには信じてくれない・・・今回はそれをうまく利用した犯罪が描かれています。
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