うめたび!

風の向くまま、気の向くまま、旅をするにはまだまだ経験も修行も足りませんが、楽しんで旅をする様子を綴ります。

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のどかな田舎町にうごめく殺意・・・アガサ・クリスティ「牧師館の殺人」※ネタバレなし

今日はアガサ・クリスティ

「牧師館の殺人」について語ります。

 

 

クリスティの大人気キャラクター、ミス・マープルの長編初登場の作品としても人気の高い本作。ロンドン郊外の小さな田舎町セント・メアリ・ミードの、場所もあろうに牧師館で殺人が起こります。

 

被害者は、横暴で独善的な町の老判事プロズロウ大佐。

 

容疑者は彼の実の娘、若い後妻、その愛人、町へやって来たばかりの謎めいた美しい夫人、また彼をよく思わない人達・・・と枚挙にいとまがありません。

 

そんな中、意外な人物が警察に自首をしたことで、事件はあっけなく幕を閉じるかに見えましたが・・・我らがミス・マープルの目は誤魔化されず、クレメント牧師(事件のあった牧師館の主で町の牧師様)と共に事件解決のために奔走します。

 

ミス・マープルって物語の中で、事件について語る時によく「私が若い娘だった頃は」とか、自身の経験を踏まえて話すことが多くて。

「私の住んでおります、セント・メアリ・ミードでは・・・」って枕詞みたいに使ったりするのです。それくらい、彼女とセント・メアリ・ミードって切り離せない深い関係(居住しているんだから当然ですが)にあります。

 

その噂の? セント・メアリ・ミードが舞台なので、わくわくして読み進めるのですが、事件が起こった時、牧師館て場所はまあともかく、

 

 

よくこんな田舎で殺人やったな

 

と思いました。

 

サスペンスドラマのクライマックスでよくある「犯人と崖の上で対峙する」シーンを観ても思いますが、

「崖の上とか呼ばれたって普通行かねーよ」みたいなものですよね(????)

 

令和になった現代こそ「プライバシーの尊重」「個人情報保護」「不干渉」が重視されていますが、古き良き時代の英国のセント・メアリ・ミードにそんなワードは存在しません。

 

本作の語り手でもあるクレメント牧師が、穿鑿好きなオールド・ミス達にうんざりして、

「この村ではみんないったいどうやってご飯を食べているんだろうね? きっと窓辺に立ったまま食事をしているに違いない。通りで起こることを何ひとつ見逃さないために」

なんてぼやぼやくシーンがあるくらい、住民のささいな行動がすべて筒抜け。何でもすぐ噂になってしまいます。

 

そんな町で殺人を犯すわけですから。犯人の肝っ玉はすごいもんです。

当然、口さがない老婦人たち(ミスもミセスも関係なく)はあれこれ噂を立て、どこまで信じてよいのか分からない情報を警察に提供し始めます。

 

ミス・マープルは「ゴシップにこそ真実が隠れているもの」と、自身も町の噂に耳を傾け、おしゃべりをし、その実じっくりと真相に近づきます。

 序盤に出てくる小さな謎や伏線の回収が鮮やかなのもクリスティ作品の魅力だと思っているのですが、事件解決後、「あー、そういうことだったんだ!」と分かりやすく解決していくのも面白い。

 

 心ならずも殺人事件に巻き込まれくたくたのクレメント牧師のもとへ、事件後にある幸運がやって来ます。彼の妻は「ぜったいに秘密にしてね!」と念を押すのですが、当然?ミス・マープルは一目で見抜いています。それが何かは本作を読んでのお楽しみにしていただきたいのですが・・・クレメント牧師がいみじくも言ったとおり、

「暇を持て余しているオールド・ミスに匹敵するような探偵は、イギリスにはいない」のです。