謎解きはティータイムのあとで・・・「パディントン発4時50分」アガサ・クリスティ※若干ネタバレ
今日も、アガサ・クリスティの作品について語ります。
「パディントン発4時50分」
物語は、マクギリカディ夫人という老婦人が、乗り合わせた列車と並行して走る列車の窓から、若い女が首を絞められ殺される現場を目撃するショッキングな場面から始まります。
あまりに現実離れした出来事に、マクギリカディ夫人は強いショックを受けながらも車掌や鉄道関係者に事の次第を訴えますが、まともに取り合ってもらえません。
そこに登場するのが、我らがミス・マープルです。
本作は殺人から始まり、一気に物語の世界に引き込まれます。平行する列車内で殺人を目撃するが、犯人はそれからどうしたのか?殺された女の死体はどこに隠されたのか?が序盤の最大の謎として立ちはだかります。
クリスティの文章は、読者目線で進行するのが大きな魅力だと思っています。
序盤では死体探しに奔走するミス・マープルの目線で物語が進み、私もミス・マープルと一緒に冒険しているような気持ちで読み進めていきました。警察でまともに相手してもらえない歯がゆさ、死体探しに難航する焦りを感じ・・・
そして、中盤からはミス・マープルが事件捜査の相棒に選び、死体が隠されていると確信する「ラザフォード邸」へ内偵に送り込む本作品のもう1人のヒロイン、ミス・ルーシー・アイレスバロウの目線に変わります。
彼女と一緒に屋敷内を掃除したり料理したりして、働きながら裏では死体を探し、お屋敷の内情を調べていくうちに我知らずラザフォード邸やそこで暮らす人々に興味をそそられてしまいます。
このルーシーという若い女性は、オックスフォード大出身、頭脳明晰ながら肉体労働をいとわず、知的好奇心に満ちてかつ美人というパーフェクトな人なのですが。
ミス・マープルに「死体を探してくれ」というとんでもない依頼を受け、最初は面食らいますがやがてノリノリで捜索するという柔軟なアタマの持ち主でもあるのです。
捜索の結果をミス・マープルに報告しに来るのですが、依頼主であるミス・マープルは「お茶の間は殺人のことなんて忘れましょうよ」
などと呑気に言うのです。自分で依頼しておいて・・・でもこのお茶の時間、つまりティータイムが今回事件の真相を明らかにする大きなカギでもあることが、のちのち分かります(本当に最後の最後でようやく分かった!)。
本作は殺人の謎解きと、もうひとつ、この若いルーシーの恋の行方も大きな見所となっています。クラッケンソープ氏をはじめ一癖も二癖もある息子達と娘婿まで(妻は他界しているので現在は独身)が彼女に何らかの形で言い寄ってきます。
その合間に殺人が二度、三度と繰り返されるので、絶妙な緊張感が生まれます。
ルーシーが一体誰と結ばれるのか?
それとも、言い寄るふりをして実はこそこそ嗅ぎ回るルーシーを手なずけるor殺そうとしているのではないか?!
・・・と読んでいて疑心暗鬼になってハラハラしました。
ミス・マープルは頻繁には登場しないのですが、ここぞというクライマックスにはきちんと活躍します。最後の謎解きも、美味しくお茶をいただきながら、あっといわせる展開で真犯人をあぶり出し、そう、お茶の間は殺人のことなんて忘れましょうよ、と言っておきながら自分はそのティータイムを利用して犯人を突き止めるわけですから、何とも憎い演出ですね。
真犯人も最後は捕まり、事件は解決しましたが、もうひとつの見所だったルーシーの恋の行方については結局、曖昧なままで物語は幕を閉じます。
ルーシーは誰を選んだのか?未だに論争があるようですが(おおげさ?)、私個人の意見としては、そこを敢えてはっきりしないまま終わらせたのはよかったのではないかと思います・・・大切なのはあくまで事件解決で、そして明るい未来を予兆させてくれたこと。
ルーシーと、個人的に好きなキャラだったエマ・クラッケンソープ(一家のオールドミスの優しい長女です)に幸せが待っているだろうと作者のクリスティーは教えてくれるわけで、それで充分だと思うのです。
冒頭から目が離せないミステリーの傑作、おすすめです!