ナポリを歩く
きみのためのバラ 旅をする小説
昔(若い頃)ほどではないのですが、ちょっと人見知りするたちで、
特に初対面の相手というのが、どう話をしたらいいのかわからなくて
戸惑います。
社会人になり、アラフォーになってだいぶ改善されましたが…
よく考えたら、人見知りの激しいアラフォーって、かなり問題だよなあ。
イタい大人だよなあ…皆どうなんだろ。
予定していた飛行機に乗り損ねて足止めをくらった
主人公が、苦い気持ちで食事をとる店で出会った、
幸せそうにデザートを食べる美しい女性とほんの束の間の
交流を描く「都市生活」で始まる「きみのためのバラ」は、
国際規模の一期一会を丹念につづった短編集です。
池澤夏樹氏は、優れた小説家である一方、国際社会に鋭く
踏み込む旅人でもあります。
国内外のあらゆる場所に旅をし、暮らしてきた著者の描く
小説は独特の世界で、旅先での短く、忘れられない出会いを
丁寧に描いています。
国際結婚に破たんして、異国の別れた妻のもとで育つ娘との
つながりをどう保てばよいのか途方に暮れる男との邂逅、
表題となっている「きみのためのバラ」は、長い旅路の途中で
出会った美少女のためにたった1本のバラを贈る話ですが、
見知らぬ相手が、正体不明の相手が、必ずしも善人とは
限らない。
無条件に隣人を信じることがとてもリスキーなことになって
しまった現代では、人との繋がりや絆がとても脆い、はかないものに
なってしまっていることを、それとなく浮かび上がらせているのです。
著者の人を見る目は温かく、どこか冷めていて、
マニュアルでしか会話できない現代人の危うさを鋭く指摘する
一方で、垣間見せる一瞬の人間臭さを見逃さないのです。
ローマの雨音
旅するように暮らす
最近、家の近くを歩いていて、神社でお祭りを
やっているのに出会いました。
正直、近所に住んでいても見落としそうなくらい
小さな神社なのですが、夏は盆踊り、秋はお祭り、
新年には初詣客にお清めのお酒を振る舞ったり、
確か餅つき大会、なんてのもやってた。
どれも人出は多くはないのですが、ゼロではない。
地元の人がちゃんと来ているのです。
当たり前だけど、何だかすごい。
また、うちの近所に居心地の良いカフェがあるのですが、
外観は可愛いのですがちょっと微妙で。
入るまでに少し勇気がいりました。ただ、悪くはなさそうな
雰囲気が、小さな店全体に漂っていたので、思い切って
入ってみたら、ものすごい狭い店内にびっくり。
でも、椅子やテーブル、飾り棚においてある雑貨ひとつひとつに、
オーナーさんの気遣いが感じられる心地よい空間でした。
珈琲にいろいろとこだわりがあるようなのですが、
料理のメニューも豊富で。しかも量がちょうど良くて美味しい。
オーナーさんは、おそらくご夫婦なんですが、
お二人とも親切で癒し系な方達です。
ただ暮らしていると日常に埋もれて見落としてしまいますが、
「旅人」目線で見て歩くと、地元にも非日常が溢れています。
パリやウィーン、ロンドンを観光客として歩く時、
ただの路地裏、信号、行き交う人々、公園の柵ひとつにまで
ヨーロッパの風情に非日常を見出してしまう。
日本とまるで街並みや景色が違うのだから当たり前だけれど、
自分の暮らす町を、同じ目線で見たら、きっといつもと違う
発見があると思うのです。
パリとかロンドンでなくても、
「朝、起きて、お腹が空いているけれど家に食べる物がなかった時、
よく近所のカフェへ朝食をとりに行った。店の主人は私を見覚えていて、
顔を見るやすぐ温かいカフェオレを出してくれる。私は朝刊を読みながら
ゆっくり湯気の立つカップから啜り、窓から差し込む朝陽に目を細めた」
なんちゃって「パリのカフェライフ」が成立できるのです。
「住まなきゃわからないドイツ」
「びっくり先進国ドイツ」
の著者・熊谷徹氏は、フリージャーナリストとしてドイツで暮らした日々を
綴り、日本人がドイツに対して抱いている先入観を気持ちよく裏切って
くれます。
ジャーナリストらしく、ドイツの政治や歴史、社会問題にも
鋭く切り込んでいますが、大半はドイツ、ミュンヘンでの暮らし、
ドイツ人の国民性について書かれています。
春の歓び、夏の楽しみ、ドイツへ来てパンが好きになったくらい、
パンが美味しいこと。
バケーションに命をかけるドイツ人の情熱。
ミュンヘンで一番快適な乗り物は自転車とか(ベンツとかじゃないんだ)、
歌謡曲事情(ドイツらしくベルリンの壁を歌ったものとか)などなど。
住人でありながら、どこか「旅人」の視線、好意を持ちながらも
どこか冷静な目で語るその文体から、ドイツの印象を鮮やかに描き出しています。
日本人と通じる国民性があったり、それでいてまるで正反対な顔も垣間見せる
ドイツとその人柄に、心が引き寄せられています。
なぜパリをめざすのだ
紅葉を見に行こうと思ったら・・・
紙上のコント
小説家の書くエッセイが一番好きとか言いましたが。
唯一の例外が群ようこ氏です。
古くは「鞄に本だけつめこんで」
これを読んで、一気にファンになりました。
文章の読みやすさ、彼女を取り巻く面白おかしい人々を
表現する時の独特の描写とか呼び名(別の小説ですが、
登場人物を“まじめな人”とか“売れない演歌歌手”と呼称し
ずっとそれで通してた)とかとても面白くて身近な出来事として
親近感を持たせてくれます。
亜細亜ふむふむ紀行は、タイトル通り、
香港、ソウル、大阪を訪れた際のドタバタを
綴った紀行エッセイですが、1993年と
返還前(何年前だよ)の香港で少し買い物をして
(他の同行者は凄まじい勢いで買い物してますが)、
たくさん食べて、でも酷暑な香港で体調を崩して
寝込んでしまったり、そんな珍道中が生き生きと
綴られています。
著者が、ホテルでへたばっている間、他の
同行者達がナイトマーケットを訪ねたり、
マカオのカジノでの話を、すべて「聞いた話」と
しながら面白おかしく語っています。その様子は
本当に紙上のコント。筆者と一緒にドキドキハラハラ、
イライラ、わくわくしながら旅をしている気分になれます。
登場人物として出てくる同行者達も魅力的で、
いつもぼんやりのんびりして「世界一買い物が下手くそな女」と
こき下ろされながらも幹事として奮闘する女性とか、
機関銃張りに喋りまくる女性とか、
出発当日に大遅刻してひんしゅくを買う男の子とか、
賑やかで楽しそうで、絶対さびしくなさそうな面々です。
マカオのカジノで、機関銃おしゃべり女と大遅刻男子が
ルーレットで偶然出会った可愛い女の子(中国人?)を
勝手にキャサリンとか名付けて夢中になったりするところとか、
もうどこから突っ込んでいいか分からないくらい面白い。
大好きな1冊です。