きみのためのバラ 旅をする小説
昔(若い頃)ほどではないのですが、ちょっと人見知りするたちで、
特に初対面の相手というのが、どう話をしたらいいのかわからなくて
戸惑います。
社会人になり、アラフォーになってだいぶ改善されましたが…
よく考えたら、人見知りの激しいアラフォーって、かなり問題だよなあ。
イタい大人だよなあ…皆どうなんだろ。
予定していた飛行機に乗り損ねて足止めをくらった
主人公が、苦い気持ちで食事をとる店で出会った、
幸せそうにデザートを食べる美しい女性とほんの束の間の
交流を描く「都市生活」で始まる「きみのためのバラ」は、
国際規模の一期一会を丹念につづった短編集です。
池澤夏樹氏は、優れた小説家である一方、国際社会に鋭く
踏み込む旅人でもあります。
国内外のあらゆる場所に旅をし、暮らしてきた著者の描く
小説は独特の世界で、旅先での短く、忘れられない出会いを
丁寧に描いています。
国際結婚に破たんして、異国の別れた妻のもとで育つ娘との
つながりをどう保てばよいのか途方に暮れる男との邂逅、
表題となっている「きみのためのバラ」は、長い旅路の途中で
出会った美少女のためにたった1本のバラを贈る話ですが、
見知らぬ相手が、正体不明の相手が、必ずしも善人とは
限らない。
無条件に隣人を信じることがとてもリスキーなことになって
しまった現代では、人との繋がりや絆がとても脆い、はかないものに
なってしまっていることを、それとなく浮かび上がらせているのです。
著者の人を見る目は温かく、どこか冷めていて、
マニュアルでしか会話できない現代人の危うさを鋭く指摘する
一方で、垣間見せる一瞬の人間臭さを見逃さないのです。